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続けてみた vol.1 [ヘ.タリア]

 期間:WW2開戦~終戦
 舞台:ハワイ~サンフランシスコ~ガダルカナル~フィリピン~東京
 主要じゃない登場人物:昭和天皇、マッカーサー
 主要だけれど置換された登場人物:カン・タガミ中尉他、ウェッカリング大佐
 重要アイテム:アイスクリーム、コカコーラ
 忘れちゃいけない:広島物産陳列館

 キィワード書き出しただけじゃ、なんかもー、物凄く意味不明ですな。

 ざっと考えただけで10章超の長編になりそうでガクブルしています。まぁ、4年なんて期間を書くんですからね。短編で済む訳がないですよね(泣)

(続)

 だが、それも長くは続かない。だいたい軍の食事なんて、動きまくる野郎どもの胃袋を基準にしている。質より量、味より量、とにかく量。普段のキクだって「あんなのとても食べ切れません」と愚痴っているくらいだ。

 そのうち、料理を半分ほども残した皿の両脇に、キクの手を離れたナイフとフォークが下ろされる。それを見計らっていた俺は口を開いた。

「なぁ、ホンダ」
「何ですか、士官のクセに下士官の食事を横取りするバイルシュミット中尉」
「結局食い切れてねーじゃねぇか……じゃなくてだな」

 実のところ、何を言おうかなんて考えちゃいなかった。だから、咄嗟に口から出たのはこんな言葉だった。

「お前の故郷、どんなトコロだったんだ? 一度行ったことがあるって、言ってたよな」

 黒い瞳がきょとんと俺を見た。それから、口元に仕方ないとでも言いたげに小さな笑いが浮かぶ。慣れてもいないのにコイツを励まそうとした俺のコトなんて、お見通しだとでもいうように。

 何でもいい。それでお前の気が紛れるのなら。

「……えぇ。私はハワイで産まれましたが、一次大戦で日本人が徴兵されそうになって、両親は幼い私とヒロシマの実家に帰ったんです」
「ヒロシマ?」
「日本の真ん中からはちょっと西寄り、内海に面した県で、ヒロシマ市という大きな都市があります。有名というと、ミヤジマの大鳥居(おおとりい)でしょうか。海の中に、鳥居――神の門――が建っているんです。波のない青いセト内海に、幾つもの島を背景に朱色の大鳥居がくっきりと浮かび上がって」

 キクは目を閉じた。思い出しているのかもしれない。海の青の中、茂る緑を背にした朱色の勇壮な門の光景を。それは確かに神秘的で、美しく思えた。

「面白そうだな。できるなら一度見てみたい」
「もしも本当に訪れることがあれば、きっとお気に召しますよ。日本三景と呼ばれて、日本で最も美しいとされる場所の一つです」
「他には?」
「そうですね。ハワイから引っ越したばかりの頃、チンタオの戦いで日本軍の捕虜になったドイツ人技術者の展覧会があって、そこで日本で始めて売られたっていうバームクーヘンを食べました」
「ヒロシマの話を聞いてんのに、出てくるのがドイツ人捕虜のバームクーヘンかよ」

 思わずげんなりした口調になったが、キクには通じていないようだった。

「あんまり幼かったから展覧会の様子はほとんど憶えていないんですけれど、バームクーヘンはとても美味しかったのを憶えていますよ。一度に食べてしまうのがもったいなくて、外側から一枚いちまい剥がしながらゆーっくり食べました」

 それはマトモなバームクーヘンの食い方じゃない。もう少しで言ってしまいそうだったところへ、ふとキクはまた何かを思い出したように語り始めた。

「あと……日本を離れる直前に、プリンス・ヒロヒトを見ました。今はもう、ショーワ・エンペラーとして即位していますけれど」
「へぇ、パレードでもあったのか」
「公務の途中でヒロシマに寄ったそうです。ヒロシマ駅までの大通りに、小学生だった私は先生に引率されて整列して。たくさんの人が、ヒノマル国旗の手旗を持って集まっていました。しばらくすると、黒塗りの車がやって来ました」
「お前、そのときも小さかったんだろ? 前見えたのかよ」
「みんな頭を下げていたんです。騒がしい男の子は先生に頭を押さえつけられていました。でも私は、どうしても自分の目で見たくってそっと顔を上げたんです。幸運なことに先生には気付かれませんでした」

 キクは秘密を囁くように、だんだん小さな声になった。バレたって、今の彼女はアメリカ人で、ココはガダルカナルの戦場だ。国王に対する不敬罪だ! なんて言う奴はいないだろうに。

「車窓の奥に、プリンス・ヒロヒトが座っていました。それと……不思議な女性と、目が合ったんです」
「女性? プリンスと一緒にいたんなら、普通その妃だろ」
「妃のプリンセス・ナガコは写真を見て知っています。まぁるい顔で、長い髪を結い上げていて。髪をボブに揃えていたその女性とは違いました」
「じゃぁ、誰だったんだ?」
「さぁ……分かりません」

 呆気ない返事に、俺もそれ以上追及する気を失ってしまった。何より、塞ぎこんでいたキクを元気付けることは出来た、と、思う。

 俺は皿の上で冷め切っていたポテトコロッケを摘んで口に放り込むと、キクに手を振ってテーブルから離れた。
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