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こんなんで続く……かも [ヘ.タリア]

 10周リク、考えているとどうにも長くなりそうで、どーゆー風にアプローチしようかと悩んでおります。
タイトル:It is why, I am be...

登場人物
マリア・キク・ホンダ(本田菊)
 米陸軍・1等軍曹(語学)、日系2世 「虫歯治療のために入隊しました」
ギルベルト・バイルシュミット
 米陸軍・中尉、独系2世、キクのバディ(日系人兵が友軍狙撃されないための護衛)
ルートヴィッヒ・バイルシュミット
 米陸軍・中尉(語学)、独系2世、軍語学学校でのキクの教官
アーサー・カークランド
 米陸軍・少尉(語学)、軍語学学校でのキクの同期 (階級の違いは日系人差別)
アルフレッド・F・ジョーンズ
 米陸軍・少尉 アイスクリームとコーラをこよなく愛するヤンキー

* * *

 掘っ立て小屋同然ながら大きさだけはデカい食堂は、久々の勝利の快挙に沸き立っていた。兵士たちは無料支給された安酒を手に手に盛り上がり、笑っている。騒ぐ兵士の真ん中には、バケツほどありそうなアイスクリームの缶を抱えたアルフレッドいた。ヤツは上機嫌そうにバケツに直接スプーンを突っ込んでは、アイスクリームを食い続けている。

 捕虜一人にどれだけのアイスクリームが配られたのかは知らないが、多少の人数でバケツが一杯になる単位ではないだろう。だとすれば、ひょっとすれば、今日の捕虜はほとんどアルフレッドが捕まえてきたのかもしれなかった。

 ゲンキンなものだと、呆れる。昨日まではあれほど日本兵を怖がって鹵獲命令すら無視してライフルをぶっ放し続けていたヤツが、アイスクリームごときで無意味な殺戮をぴたりと止めたのだから。

 もっとも、アイスクリームの効果だけでもなかったのだろうが。

 その原因となった人物を探して、食堂を見渡す。いない筈はない。食い意地だけは張っているアイツが、メシの時間にココにいない筈がない。目を凝らして探せば、カーキ色の軍帽にほとんど隠された、テーブルに座っていてさえ背の低い黒髪が見つかった。

 アルコールに足元をふらつかせる兵士たちを押し退けるように進む。乱暴になってしまった手元に睨んでくる者もいたが、俺の戦闘服の襟元の階級章を見て口を噤んだ。ココにいるヤツらのほとんどは下っ端の兵士や、せいぜいが軍曹といった下士官だ。中尉の階級章に特殊戦闘員章までつけた俺に楯突こうとするアホはいない。

 騒がしい周囲には目もくれずコロッケにナイフを入れていた黒髪の前に座る。けれど、コイツは気付かない。

「無視かよ、おい」

 声をかけると黒髪がぴくりと揺れた。コロッケにナイフを突き立てたまま、下ばかりを向いていた顔が俺へと上がる。黒い瞳が、ムサい男たちばかりの中に異質な女の顔が、俺に向き合う。

「……バイルシュミット中尉」
「シケたツラだな、ホンダ1等軍曹。まぁ、そうだろうとは思ってたけれどよ」
「…………」
「キク。お前がやったことは間違っちゃいねぇんだ。少なくとも、俺たちには」

 悪魔のようだと恐れられていた日本軍、そしてその兵士たち。

 キクは一人の日本兵が遺した手帳に記されていた生還への祈りの言葉を訳して兵士たちに伝えることで、日本兵は悪魔ではなく自分たちと同じ――そしておそらくは弱い――人間なのだと、ヤツらに気付かせた。

『神よ、守りたまえ』

 故郷の家族への思いを綴った文章の最後にあったのは、凶悪な悪魔なら決して使いはしないだろう祈り。ココにいるヤツらのほとんどが、出撃の前には口にするだろう祈り。

 けれどその祈りは皮肉にも、彼らの敵であるアメリカ兵(俺たち)を勇気付けた。

「私は……私は、ただ……」

 コロッケに突き立ったままのナイフが倒れ、中味のマッシュポテトが崩れる。このままでは折角のポテトコロッケが不憫に思えて、俺はキクの手からフォークを取り上げると崩れたポテトを押し固めてそれなりの塊にし、フォークで突き刺して自分の口に放り込んだ。

 ちょっとマーガリンの匂いと脂っこさが気になった。ビールがあればいいツマミになっただろうが、生憎とココは酒場じゃない。

 キクが呆気にとられたように俺を見る。

「な、な……私のコロッケ」
「早く食わねぇと冷めるぜ」
「そんなの分かっていますッ!」

 キクは俺の手からフォークを取り返すと、コロッケを猛然と食い始めた。

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